【はまって、はまって】バックナンバー 2003年  江崎リエ(えざき りえ) 2002年2001年はこちら



インドカレー偏愛 2003.1

会社のすぐ近くにインド料理の専門店がある。3種のカレーとナンかライス、インド風の野菜の浅漬けがセットになったランチをよく食べる。思えば、私のインド料理好きはいつから始まったのだろう。高校時代、赤坂のインド料理店に行ったのが最初だろうか。新宿・高野の中にあったインド料理店にもよく通った。私の最初の海外旅行は30歳を過ぎてから仕事で行ったインド北部の旅なのだが、その時はすでに「三食カレーでも満足」というくらいのカレー好きだった。実際、インドでは路上の屋台、場末の定食屋から最高級ホテルのレストランまで、さまざまなカレーを食べたが、それぞれがおいしくて感激した。インド料理といってもカレーだけではなく、数種のインド風パン、天ぷらやフライのような料理もあるのだが、私は、材料も味も辛さも千差万別のカレーを毎日食べるのが楽しみだった。

インドから帰ってからは、自分でインドカレーを作るようになった。インド料理の本を買い、さまざまな香辛料を買い集め、玉ねぎを細かく刻んで根気よく炒めることを覚え、カシューナッツの粉を入れてとろみをつけ、ヨーグルトで辛さを調整する。ナンは窯が違うとなかなかおいしくできないのであきらめたが、全粒粉の小麦粉を練って焼くだけのチャパティはよく作った。家族にも食べさせたが、彼ら(夫と息子)はそれほど感激せず、我が家のインド料理で生き残っているのは、ひき肉とグリーンピースのドライカレー・キーママターとカレー味のひき肉やじゃがいもを小麦粉の衣に包んで揚げたサモサだけだ。私が一人の時には骨付きチキンをじっくりと煮込んだカレーを作ることもあるが、ふだんのカレーはジャガイモ、ニンジン入りの日本風カレーだ。

インド料理の魅力の一つは香辛料の組み合わせの豊富さだが、もう一つの魅力は野菜や豆の使い方にあると思う。最近の私は努めて野菜を食べるように心がけているので、新年はベジタリアンのインド料理に挑戦して見ようと思っている。

☆近況:広告制作会社に勤めて4年目に入り、すこし仕事の質を変えたいと思っています。自分のホームページももっと充実させて、署名原稿を書く楽しみを深めたいとも考えています。皆様、今年もどうぞよろしく。


ことばのずれ 2003.2

久しぶりに芝居の脚本を読んだ。たまたま目について買った雑誌に脚本が載っていて、それぞれに個性のある3本の脚本を読んだのだが、せりふと意識のずれ、言葉と意味のずれ、語り手と聞き手の受け取り方のずれなどを意識して作り出している場面がけっこうあって、なかなかおもしろかった。客観的に見ているとそのずれがよくわかるので、コント風で笑えるのだが、日常生活の中で当事者になった場合は、ずれに気づかず、いらいらすることも多いのだろうなと感じたり……。

というもの、私は広告の仕事をしていて、言葉を生業にしているわけだし、ふだんの仕事仲間や仕事相手も言葉でアイデアを出しあい、言葉で説得し合うという間柄なのに、最近「ちゃんと話が通じていないな」と感じることが増えている。何を言いたいのか分からない指示のメールをもらったり、二人で同じ話を聞いて帰って来たのに、その内容を突き合わせるとずいぶんと違う解釈をしていることもある。日常生活の中でなら笑ってすませるが、これが仕事の方向性に関わるとなるとなかなかやっかいだ。どうしてこんなに国語力が落ちたのだろう、活字離れのせいか、ばかなテレビ番組のせいかと、腹立たしく思いながらもなんとか毎日をやり過ごしている。そんな時に久しぶりに脚本を読んで思ったのだが、いっそ、このずれ具合を書き留めておけば、おもしろい芝居の一シーンに使えるかも知れない。まあ、これは半分冗談だが、相手が間違えようの無いように、短い言葉で的確に言いたいことを伝えるようにしなくては、と最近つくづく思うようになった。

☆近況:2004年にパリ旅行を計画しているので、それに備えてフランス語の会話の勉強をしたいと思って、今、学校を捜しています。本だけはたくさん読んできましたが、話す訓練はほとんどしていないので、学校に行くようになったら楽しいだろうな、と想像しています。


私はダンスが踊れない 2003.3

好きなことはいろいろあるけれど、目の前で見て、圧倒的に魅了されるのはダンスだ。私は子供の頃から運動が嫌いだし、苦手だった。走るのは遅いし、体をきれいに動かすこともできなかった。そんな自分とは正反対に、音楽に乗って美しく動く体を見るのは快感だった。

最初に見て大好きになったのはバレエだ。私が小学生の頃、母がどこからかチケットをもらって来て、レニングラードバレエとかボリショイバレエを見に行った。目の前に広がる輪舞を楽しみ、振り上げた腕の高さまで揃う統制の取れた動きに圧倒された。その後は、フラメンコやモダンダンス、インド舞踊、本場のフラダンスなど、機会があるごとに様々なダンスを眺め、その度に「ああ、すごい。ああ、いいな」と思ってファンになっている。生身の体が目の前で優雅に、またはリズミカルに動くのを見ると、もう目が離せない。

だからといって自分でやってみようと思わないのは、自分の運動神経のなさを十分に承知しているからだが、「生まれ変わったら何になりたい?」と聞かれたら、ダンサーもいいなと思う。子供の頃から運動が好きで、もう少し体の動かし方をわかっていたら、趣味でダンスを楽しめるくらいにはなっていたかもしれない。しかし、運動好きになろうと思わなかったのは私自身の選択なので、しかたがない。「やはり、見るほうで楽しもう」と、今日もまた演劇情報誌を繰っている。

☆近況:フランス語の小説の翻訳の話が来ていたのですが本決まりにならずがっかり。そのかわりに映画のスクリプトブックの翻訳の話が決まり、ちょっと前は大忙しでした。2月は広告の仕事も忙しく、確定申告もあり、その上にけっこうひどい風邪を引いていたので、怒濤のような1ヶ月でした。翻訳も確定申告も終わったので、3月は春らしくのほほんとしたいです。


大道芸 2003.4

きのう30日は落語会仲間のお花見を楽しんで来ました。これまでは二つ目の落語家を呼んで一席やってもらうのが恒例でしたが、今回来てくれたのは講談師にして大道芸人という神田陽司さん。演目は「ガマの油売り」でした。

大道芸が嫌いという人はあまりいないと思いますが、私は子供のころから、こういう芸が大好きでした。母に連れられて行った寺の縁日では、七味唐辛子売りの口上やガマ口に付ける飾りを売るおじさんの口上、長い半紙に墨で縁起物の龍を描くお兄さんの口上などを、その度に足を止めてじっと見つめる子供でした。紙芝居も大好きだったし、生のパフォーマンスが好きという嗜好はこの頃から育っていたのかもしれません。

大人になってもこの性癖は変わらず、取材でソウルに行ったときには半紙に飾文字のアルファベットを描くおじさんの理解出来ない韓国語に聞き入り、私が毎日通う銀座の表通りに夜現れる人間マネキン(こちらは、じっと動かず、話もしませんが)にも、ついつい見入ってしまいます。

ガマの油売りの口上は、縁日で2、3回聞いたことがあり、私の好きな演目です。ベストセラーの「声に出して読みたい日本語」を買ったのも、この口上が入っていたから(前半だけなのが残念ですが)。

花見の席で、黒紋付きの着物・袴に白はちまき、刀を差して、「ガマの油売り」の盛装で繰り広げられた口上は、青空に向かって枝を一杯に広げた桜の木に似合って、なかなかいいものでした。

技を見せるジャグリングも楽しいですが、「究極の目的は客の財布のひもをゆるめること」という売り口上には、人間心理をついた、より深い語りの秘密が隠れているような気がします。

☆近況:ボブ・フォッシーの振付で有名なブロードウェイ・ミュージカル「シカゴ」の映画版が作られ、日本では4月19日から公開されます。このスクリプトブック『シカゴ』(角川文庫)を藤田真利子さんと共訳しました。私の担当は前半の写真集の部分、後半のスクリプトの部分は藤田さんの担当です。アカデミー賞6部門を受賞した映画も見応えがありますが、本も写真がきれいで、楽しく読んでいただけると思います。


クレマチス 2003.5

相変わらず、西日の当たる狭いベランダで細々とガーデニングをやっています。花を育てていて気づいたのは、つぼみが見えてから花が開くまでにずいぶん時間がかかること。「わ、つぼみが付いた」と喜んでから開花するまでに1週間以上待たされることもあります。つぼみによっては、そのまま開かずに終わってしまうものもあるので、たとえ小さくて見栄えが悪くても、開いた花を見る歓びは格別です。

5月、6月は私のベランダにもいろいろな花が咲いて、うれしい季節です。なかでも一番うれしいのは、私が大好きな花・クレマチスが開くこと。クレマチスは昔から私のお気に入りの花ですが、つる性なのでフェンスなどを用意する必要があり、鉢植えの仕立てが面倒でずっと置かずにいました。ところが3年前、近くの花屋でビニールポットに植えられた苗を見つけ、苗に添えられていた青紫色とクリーム色の大輪の花の写真に魅了されて、大鉢に2種を植えました。以来毎年、青紫の大きな花が3〜5輪咲いて私を楽しませてくれています。

しかも、今年はさらにうれしいことがありました。これまで全く姿を見せなかったクリーム色の花が開いたのです。1年目は「あの写真は間違いでは?」と思い、今年はクリーム色の花の苗を植えたことも忘れていたので、青花より一回り大きい花が次々に開いたのにはビックリ。3、4日遅れて、いつもの青紫花の花も開きました。クレマチスは華やかな花ですが、上品で渋みもあり、エレガントなところが気に入っています。

こうして、毎日ベランダのクレマチスを眺めていたら、もっといろいろな種類が欲しくなりました。最近は花が小さいものや、木立ち性であまりつるを伸ばさない品種も出ているので、さっそく銀座三越屋上のチェルシーガーデンへ。そこで、小型の青花ミゼット・ブルーの満開の鉢を見つけて、あまりの美しさに衝動買い。数日後、白い小花でつるを伸ばさないというアーリー・センセーションの小株を見つけて、これも買ってしまいました。これで来年の楽しみは3倍になりましたが、来年まで枯らさずにおけるか、来年花が咲くか咲かないかのどきどきも3倍です。

☆近況:今年のゴールデンウィークは大型連休にならないと思っていましたが、今朝(30日)の通勤電車はがらがらでした。大会社はちゃんと大型連休のようですね。私は、ゴールデンウィークは毎年旅行にも行かず、自宅でのんびりしています。この時期は緑が美しく、光も澄んで、東京が一番きれいな季節ですね。昨日は近くの石神井公園を散歩しました。休み中に鎌倉散歩と、できたての六本木ヒルズを見学したいと思っています。


ひさしぶりの会話クラス 2003.6

5月からフランス語会話のレッスンを始めた。大学は仏文専攻なので、本はたくさん読まされた。もともとフランス文学が好きで、卒業してフランス語とはまったく縁がなくなってからも、文学書だけは楽しんでいた。しかし、会話には弱い。そもそも私は、耳よりも目で楽しむタイプなので、たくさんの文章を読んだ経験があっても、それがなかなか会話には生かせない。

クラスは週1回、3人のグループレッスンで、毎回「映画」とか「テレビ番組」とかテーマを決めて、それについて話しあう。そこで、テーマにそって使いそうな単語、自分が話す内容に関わる単語は直前に下調べして行くのだが、教師を含めて4人のディスカッションは予想通りには行かない。その場その場で、言いたいことがわき上がってくると、私の頭はフル回転する。 まず、言いたいことに必要な単語を思い出す。単語が浮かばないと言い方を変える。こう言おうと決めたら文法をチェックする。この名詞は女性名詞か男性名詞か、時制は何にするか、この動詞に使う助動詞は何か、などなど。フル回転はするが、回転は鈍いので、「うー」と言葉を発してから文章が口をついて出るまで4、5秒の絶句時間がある。

フランス人はおしゃべりで沈黙を嫌うと言われるが、フランス人教師は、フランス人ながら教師なので、じっとこらえて待つ。3人にみつめられ、自分の脳のゆっくりとした記憶回路の動きを感じながら、一つの文章が生まれるまでを意識する。この作業は、フラストレーションはたまるが、なかなか面白い。絶句する時間をなくして、頭に浮かんだことが口をついて出てくるようになりたいと思う一方で、こんなに頭の中が大騒ぎして働いていることは最近なかったと思うと、なんだか貴重な体験をしているように思える。

幸か不幸か、この絶句時間はまだ当分続きそうなので、これまで働いていなかった脳の一部分が「たいへんだ、たいへんだ」と大騒ぎしている様子を楽しみたいと思っている。

☆近況:「シカゴ」を、高校時代の友人2人と一緒に、話題の六本木ヒルズのヴァージンシネマで見て来ました。私は翻訳のために事前にビデオで見ていたのですが、大スクリーンで見る歌と踊りはとても迫力がありました。友人の一人は、「最近CGを使った映像で観客を驚かす映画が多いけれど、シカゴは脚本の工夫で観客を楽しませる映画らしい映画で、とても楽しめた」と話していました。私も好きな映画なので、たくさんの人に見てもらえるといいなと思っています。


鍼治療 2003.7

前にマッサージと背骨矯正の話を書いたことがありますが、最近、鍼を試しています。こう書くと、「体にハリを刺すのは怖い」と思いますよね。私も思いましたよ。

そもそもの発端は、私の首の凝りをほぐしてくれていたマッサージ師のおじさんが、「これだけひどいと、鍼が効くかもしれない」とつぶやいたことにあります。その治療院には鍼をやる人もいて、「ちょっとどんなものか、刺して見ますか?」と言われ、つい好奇心にかられたのです。最初にやったのは正味15分ほど。首と背中なので刺すところは見えないし、かすかにちくっとしたくらいで違和感はありませんでしたが、「とてもよく効いた」という実感もなかったのです。ただ、その日の夜はやたらに眠く、夜は熟睡して翌朝さわやかに目覚めました。2、3日たっても肩や首がこわばらないので、「まあ効いているのかな」という印象でした。

こうやって1度やってみると、数回やってみて自分の体がどう変わるか確かめてみたくなるじゃないですか。そこで、次は30分の鍼治療に行きました。前回とは打つところが微妙に違いましたが、ともかく夜は眠くなるし、翌日の調子はいいようです。それから数回通っていますが、マッサージとどちらがいいかはまだ不明です。 その間にインターネットで鍼灸について調べまくり、だいぶ知識も身についたので、そのうち解説をしてもらいながら、目に見える所に打ってもらおうかと考えています。でも、目の前で見たら怖くなるかも。そこの見極めが難しいところです。

みなさんは鍼治療の経験はありますか。経験談など、聞かせてくれるとうれしいです。

☆近況:恒例の梅干しを漬けました。今年は南高梅を2キロと少なめです。塩分15%の白漬け。小三治独演会に行って落語熱が高まり、先日は新宿末広亭で小三治の「野ざらし」を聞いてきました。広告の仕事は相変わらずのペースで楽しんでいます。


ツール・ド・フランス 2003.8

約3週間をかけてフランスを一周する世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランス。ケーブルテレビで見られるようになったこのレースを、今年はほとんど毎日欠かさず見た。といっても、見るのはゴール前1時間から30分ほど。毎日3時間以上の放送があるものを最初から最後まで見たわけではないけれど……。

約20チーム400人近い選手がひたすら走るレースを退屈という人もいる。私のフランス語の教師などは「あれはフランスの景色を見るもの。よく、ずっと見てられるね」などとフランス人にあるまじき事を言うが、私はただ走る姿を見ていても退屈しない。チーム名や選手名、選手の特色もわからず、フランス語の聞き取り練習もかねて意味の取れないフランス語放送を聞きながら、毎日飽きもせずにレースを眺めていた。チームジャージや流線型のヘルメットがカッコイイとか、あのチームのあの選手は好みのタイプとか、レース以外の楽しみもあるけれど、一番の魅力は目の前を流れていく自転車の心地よいスピードだ。

考えてみると、私は子供の頃から同じ所をグルグル回るだけの自動車レースを見るのが好きだった。中学時代にテレビでやっていたローラーゲームを見るのも大好きだった。もっとも、ジェットコースターに乗るのは怖いので、スピードを体感するのが好きというのとは違うと思う。編み物と同じで、一定のリズムと繰り返しに没頭する感覚が心地よいのかもしれない。

今年はツール発足から100周年という節目の年で、パリをスタートしパリに凱旋するというコース設定。小麦畑やトウモロコシ畑を駆け抜け、アルプス、ピレネーの山を越え、走りに走った選手たちが、起伏のあるにパリの石畳の道を疾走するゴールを眺めた。 こうしてずっと見ていると選手たちの達成感にも共感するし、自分でも自転車を走らせたくなる。ママチャリに子供を乗せる必要もなくなり、勤め始めて自転車に乗る機会はめっきり減っていたが、ツールを見た後では「ギア付きの自転車で遠出をするのも楽しいかもしれない」と、ふと思った。

☆近況:  毎年土用の丑の日は梅干しを干し始める日。ここ何年も、その日から3日間はカーッと晴れて絶好の干し日和だったのに、今年はだめでした。お日様の恵みがないと梅干しの味もよくならないような気がします。広告業界は8月は忙しくないはずなのですが、仕事に追われています。


筋肉は美しい 2003.9

フランスで行われている世界陸上。ハンマー投げの室伏、短距離の末続、マラソンの油谷などの日本人選手だけでなく、走り高跳びや棒高跳び、ハードルなど、様々な競技を見ていると、人間の体はほんとうに美しいと思う。それぞれの競技にふさわしい体型、その競技のために発達した筋肉の付き方を眺めていると、スポーツとは縁のない私もああいう筋肉を持ってみたくなる。

きのうは渋谷文化村のオーチャードホールで、ローラン・プティ振付の「デューク・エリントンバレエ」を見てきた。デューク・エリントンのジャズの名曲に乗せて、パリ・オペラ座のダンサーと牧阿佐美バレエ団のダンサーが踊る楽しい舞台だった。とくにストーリーのようなものはなく、洗練された照明の下、心地よい音楽に合わせて美しい肉体が動くのを眺める快感を味わってきた。そこでも私の目を引いたのが、ダンサーたちの筋肉だ。男性だけでなく、草刈民代、上野水香を筆頭とする女性たちも、無駄のない見事な筋肉を持っている。

昔、プチダノンという子供向けのチーズ菓子のCMに「頭だけでも、体だけでもだめよね」というのがあったが、まさにその通り。筋肉がなくて、ちょっと思い物を持つと体中がみしみしいう身としては、美しい筋肉を持ち、意のままに体を動かすアスリートやダンサーを見ていると、「体を動かすのがほんとうに楽しいだろうな」と思う。「あの体を持ち、あの動きができるのが才能であり、その背後には計り知れない努力がある」と感じながらも、当分はアスレティック・ジムのちらしに見入ってしまいそうだ。

☆近況:8月から読売新聞の第2、第4水曜日夕刊にシリーズ掲載されている「財モード」の原稿を担当しています。5段の記事広告が3P不規則に続くマルチ広告で、半分はファイナンシャルプランナーへの依頼原稿、残りを私が書いています。貧乏ライターの私に一番縁のないのが「金融」なのですが、これまでに保険と銀行の広告をたくさん書いてきたのと、毎年確定申告をやっているのが幸いして、私にも「まあ、それなりに知識があるらしい」ことがわかりました。現在は株、債券、住宅ローンなど、私には全く縁のなかった世界の仕組みを勉強中です。やれやれ。


人生一度は…… 2003.10

「人生一度は万博だ」 再来年の愛知万博ポスターのキャッチフレーズである。日本では35年ぶりの万博なのだそうだ。

そうか、万博というのは一生に一度くらいしか見るチャンスのないものなのかという感慨とともに、私は生まれて初めて友人と出かけた泊まりがけの旅行を思い出す。学校の旅行でもなく、家族旅行でもなく、初めて女友だち4人だけで遊びに行った大阪。友人の1人の親類の家に泊めてもらい、車で送ってもらったり、食事をもてなされたりして楽しんだのが35年前の大阪万博、私たちは高校の1年生だった。今でも、あの時の4人が集まって思い出話に花を咲かせることがあるが、それぞれの印象に残っている出来事が全く違うのも面白い。

いろいろな国のパビリオンを訪ね、ニュージーランド館で濃厚なアイスクリームを食べたり、ロシア館で変わった味のコーラを飲んだりと、飲んだり食べたりしたことの印象が強いが、今思い返してみると、おおぜいの、そして様々な国からやってきた外国人を見た最初の体験だったかもしれない。そんなことを思いながら、ポスターを見る。「人生一度は万博だ」 私の目の前には人生2度目の万博がふらさがっている。これは、とてもラッキーなことのような気がする。「人生一度は……」というフレーズを噛みしめながら、ふらっと愛知万博を訪ねてみようか。

☆近況:金融商品の広告を担当するようになったので、資産運用の哲学を語っている本をたくさん読んでいます。その全てに共通するアドバイスは「節約して地道に貯金」「数%の利回りに一喜一憂するより、自分を磨いて収入を増やせ」と、しごくまっとう。広告コピーを書くときは、商品の長所を紹介しながらも、正しい情報を伝えたいと考えています。


携帯電話と文章力 2003.11

携帯電話を買った。夫が入院したので、病院からの緊急連絡用というのが第一の目的。第二の目的は携帯電話を知ることだ。最近、携帯電話の広告に携わることが多く、どのくらい遊べる物なのか実体験してみようと考えた。

しかし、マニュアルがわかりにくい。息子は「マニュアルなんか読まないで適当にやる」と言うから、マニュアルを読む人間など、ほんの一握りなのかもしれないが。

そもそも、基本の電話機能も今ひとつだ。安い機種(つまり古い)を買ったせいか、相手の声がハウリングを起こすようで聞き取りにくい。情報サイトに入っての情報取得はものによっては役立ちそうだし、写真機能も楽しめそう(私のにはついていないが)だが、今のところ役に立つのは電話帳機能とリダイアルくらいだろうか。

メールも打ちにくい。パソコンのキーボードで打ち慣れていると、あんなもので文章を書く気にはならない。私は昔、みんなが携帯でメールを打つようになれば、文章を書き慣れて文章力がアップするのではないかと思っていた。しかし、やってみてわかった。携帯を打つのと文章を書くのは違うのね。携帯は打つのに時間がかかるので文章が頭の中に停滞する感じ。思考が流れて行かないので、いくら書いても文章が練れるようにはならないと思う。

こうして持ってみると、ケータイを楽しむ秘訣は「時間つぶしのゲーム感覚」にありそうだ。「どうりで皆、通勤電車の中でメールを打つわけだ」と妙に納得した。

☆近況:10月始めに夫が慢性の骨髄炎を悪化させて入院。暮らしが変わってしまいました。毎日一緒にビールを飲んでいたのですが、最近は息子と食事なので、ビールを飲まない日が増えています。


読書のぜいたく 2003.12

 ここで書いたり読んだりしている皆さんには、何を今更と言われるだろうが、最近読書の楽しみをしみじみと感じている。いや、読書のぜいたくというべきかもしれな い。

 と言うのも先日、「地球上で読書の楽しみを味わっている人間は意外に少ない」と今さらながらに思ったからだ。きっかけの一つは、野中邦子さんの翻訳書『世界を食いつくせ!』を読んでいて、「あなたがどんなに愚かで、下品で、頑固者であろうが、この文章を読めるだけで特権人種なのだ。文字を読む能力は一定の教育レベルの産物だが、世界の大半の地域ではそのレベルがいまだに達成できていない」という文章にぶつかったからだ。学校教育を受け、文字を読めるようになっただけで恵まれているということを、私たちはつい忘れがちになる。

 そして、まわりを見回すと、一定の教育レベルがあっても、本とは縁のない若者もたくさんいる。先日、読売新聞の月曜別刷「ぴーぷる」の特集原稿を書くために「携帯読書」の取材をしたところ、携帯電話に文学書のデータを取り込んで読む層は20代の若者が多く、それまで本屋に行ったことのない新しい読者層の掘り起こしに成功しているという。私の息子も、「本は楽しい、本屋は楽しい」という私の甘いささやきに、高校生になるまではほとんど耳を貸さなかった。息子が金城一紀の「GO」を、「おもしろいから読んでみたら」と持って来たときは、「この子が読書の楽しみを知ってよかった」と感涙にむせんだものだ。

 私のまわりには読書好きが多いが、実は読書とはごく限られた人間の楽しみなのかもしれない。本屋に行き、たくさんの本の中から好きな本を選び、わくわくしながら買って帰って、家でゆっくり読む。これだけで相当にぜいたくなことなのだ。今年の正月休みはこの楽しみをじっくり味わおうと思っている。

近況:来年の手帳とカレンダーを買いました。手帳はブルーから鮮やかな黄色になります。英語に馴染もうと、会社の机の上には猫の英語版日めくりカレンダー(page a day calenderと言うのね)を置いていたのですが、あまり文章がおもしろくなかったので、来年は同じ会社のガーデニング日めくりにしました。毎年11月末に手帳とカレンダーを2つを買うと、今年ももうすぐ終わり、という気になります。