【はまって、はまって】バックナンバー 2014年  江崎リエ(えざき りえ) 

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はまって、はまって

江崎リエ(2014.01.02更新)




毎年恒例、玄関のお正月飾り




おせちのかわりに
正月用におでんを煮ました
あいまいな記憶

 「今年はおせちを作るのをやめよう、どうせ店が休みなのは元旦だけだし」と、年末に思いました。その時には、「これまでは毎年作ってきたけれど」という気持ちがあったので、一大決心のつもりでした。ところが、これは単なる思い込みで、実は昨年も一昨年もおせちを作っていなかったことを発見しました。私はずっと5年連用日記をつけているのですが、その日記を見てみると一昨年は引っ越しの準備中だったので何も作っていませんでした。昨年は4日から旅行だったせいもあり、慈姑だけ煮てその他は何もしていませんでした。この慈姑の話は、昨年1月の牧人舎のエッセイに書きました。

 日記を見て、自分の記憶はなんてあいまいなのだろうと思いましたが、負け惜しみを言えば、適度に忘れるほうが人生は楽しく生きられるかもしれません。というのも、仕事で味わった不愉快な思いをずっと覚えていて、「その担当者や顧客の仕事は2度としたくない」という人もいますが、私は半年もすれば細かいことは忘れてしまうので、誰とでも淡々と仕事ができます。

 ただし、不愉快なことでも忘れてはいけないこともあります。とくに、思想信条に関わる理不尽なことにはしっかりと怒って、その怒りを忘れてはいけないと思っています。昨年1月のエッセイに「原発事故の収束にはほど遠く、自民党の躍進で日本の右傾化も心配」と書きましたが、それがそのまま今年も引き継がれていて、暗い気持ちになります。政治に関する事にはもっと怒らなくちゃいけない、自分の思いを言葉にしなくてはいけないと感じます。ささいな怒りはさっさと忘れ、怒って戦わなければいけないところはしっかり戦う。今年はそんな年にしたいと思っています。皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.02.03更新)




パリで買ったネコのブローチ




リアのネコの顔のブローチ
ネコのブローチ

 暮れのバーゲンでワンピースを買った。試着した時は、丸襟の中央に金の飾りがついているのでネックレスなしでもよさそうと思ったのだが、家で着てみるとなんとなく寂しい。そこで、前にパリで買ったネコのブローチを付けてみた。私のアクセサリーはほとんど銀で統一されているので、金色のこのブローチはなかなか出番がなかった。久しぶりに付けてみて、これを買った当時の情景が思い出された。

 それは、ちょっと不思議な買い物だった。パリのカルチェ・ラタンの安ホテルに泊まっていて、明日は帰るという日に、何か自分のための記念の品を買おうと思って近くの土産物屋に入った。煤けた感じの寂れた小さな店で、店の奥にいる店主らしき初老の男性に声をかけ、店の中を眺めた。店の中央の台の上に小さなボール紙の箱がいくつかあり、その中に指輪やブローチが並んでいた。そこにセルロイドのネコの顔のブローチがあった。かわいらしい感じのデザインだったのでそれほど気に入ったわけでもなかったのだが、とりあえず店主に値段を聞いてみた。すると店主は「これは高いですよ」と言い、あなたには向かないと思うというようなことをむにゃむにゃ言いながら、そのブローチを奥へ持って行ってしまった。「売りたくないなら出しておかなければいいのに」と、ちょっと腹立たしく思ったし、店主はそのまま出てこないので、なんとなく居心地が悪かった。それでも店内を眺めていると、しばらく経ってから店主がボール箱を持って出て来た。そして、「これは友人がデザインしたブローチだけれど、このほうがいいんじゃないか。これなら20から30ユーロだ」と言う。それで、箱の中にあった数個の中から選んだのがこのネコのブローチなのだ。

 フランス人の店主は客が入って来ても笑顔を見せないので、なんとなく機嫌が悪いように感じる。この店主も笑顔はなし。ブローチを持って行ってしまった時も仏頂面だったのだが、どうやら奥で私に見せるためのブローチを探していたらしい。最後まで笑顔はなかったが、帰りがけには「観光客なのか?」「いつまでいるのか?」と聞かれ、「明日帰る」と話した時には「またパリにおいで」と言ってくれた。

 帰ってからしばらくは、「あのセルロイドのネコはいくらだったのだろう」と時々思い出していた。その後、セルロイドのブローチで有名な作家レア・スタインの名を知り、店主が売ってくれなかったネコのブローチはレア・スタインの作かもしれないと思っているのだが、レアのネコブローチを見ても同じ人の作かどうかはっきりしない。次にパリに行った時に同じ店を訪ねて確かめてみたいと思っているが、その機会がないまま数年が過ぎている。場所もうろ覚えなので行きつけないかもしれないが、そんな探索をしたいという気持ちが、新しい旅をもくろむエネルギーになるのだと思う。

*Lea Stein画像で検索すると、すてきなブローチがたくさん出てきます。眺めて楽しんでください。

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.03.03更新)




サンフランシスコの社会鍋




ケベックの社会鍋


リヨンの社会鍋
「鍋」か「やかん」か、調べ物はおもしろい

 週に1回フランス語の学校に行っている。先週そこで読んだのがアベ・ピエールの1954年の冬のラジオ放送の原稿だ。アベは「神父」という意味のフランス語なので、ピエール神父と紹介されることも多い。アベ・ピエールはホームレスや社会に適合できなくなった人々を救済することに生涯を費やした慈善活動家で、毎年行われる「フランス人が最も愛する有名人アンケート」でも長い間1位の座を占めて尊敬されていた人だ。

 アベはabbeと綴るが、私はabeille(アベイユ=蜜蜂)を連想して、羽根を震わせながら動き回る様子が、常に弱者のために動いていたアベ・ピエールの姿と重なって見えた。そう思い始めると、彼のまわりに集まる大勢のボランティアも蜜蜂の群れのように感じられる。

 厳寒のフランスの路上生活者のためにカンパやボランティアを要請するこのラジオ放送原稿を読んで、子供時代によく見た救世軍の社会鍋を思い出した。暮れになると囲炉裏に掛けるような大きな鉄鍋をぶら下げた三脚が新宿の通りに現れ、制服姿の数人が鍋の中に寄付を呼びかけていた。これも生活困窮者支援のための募金活動で、両親を含め通りがかった人は当たり前のように寄付していたように思う。

 そんな話を授業でしようかと思い、救世軍について調べてみた。救世軍はロンドンで創立され、英名はThe Salvation Army、仏名はArmee du salutだ。そして、社会鍋だが、これは日本で定着した名前でオリジナルの英語はChristmas Kettle (クリスマス・ケトル)だという。日本では「正月ぐらい皆が寝床と食べ物のある暮らしをしてほしい」と思うが、ヨーロッパではそれがクリスマスなのだろう。そして、Kettleはやかん、湯沸かしだが、欧米の社会鍋はやかんの形をしているのだろうか。インターネットで画像検索すると赤いバケツのようなものが出て来た。そしてフランス語ではMarmite de Noel(マルミット・ドゥ・ノエル)という。ノエルはクリスマスのことだが、マルミットはやかんではなく寸胴鍋または深鍋のことなので、この名称のほうが日本のものに近い。ただ、画像検索で出て来たものの中には、たらい状のものや球形で透明のものもあった。

 こんなふうに調べ物をするのは楽しいが、アベ・ピエールのラジオ放送から60年経った今も、寒空の下、路上で暮らす人が一定数存在する現実はフランスでも日本でも変わっていない。多分、他の先進国でも同様だろう。日本では昔に比べて社会鍋を見かけなくなったが、見つけたら寄付をしようと思うし、もっと貧困に対して憤って行動をしようと思う。そんなここと考えさせられたラジオ放送の原稿だった。

                           
 アベ・ピエールとラジオ放送の内容について知りたければこちら


(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.0404更新)



"弱い"ロボットという発想の転換

 数週間前の朝日新聞『フロントランナー』の記事に、「弱いロボット」を作っているロボット学者が紹介されていた。私が最初に惹かれたのは「弱い」と「ロボット」という語の組み合わせだ。ベクトルとして「強い」「完璧」という方向性を持つと思っていたロボットが、逆のベクトルを持つ語と組み合わされているのを面白いと思った。

 このロボット学者は、豊橋技術科学大学の岡田美智雄教授。正確に言うと、ロボット学者というよりもコミュニケーションや認知科学の研究者らしい。彼は人間の能力に近いロボット、人間の代わりをするロボットを研究開発しているのではなく、人間に助けを求めるロボット、人間を動かすロボットを作って、人間とロボットの関係を研究している。

 ロボットと言えば、本田技研が開発した二足歩行ロボット「アシモ」が思い浮かぶ。この技術はすばらしい。「ここまで人間に近い動きができるんだね」と見とれてしまう。しかし、関係を持ちたいとは思わない。だいぶ前に名古屋万博に行った時にはヒューマノイド型の女性ロボットが観光案内所にいて、これもよくできていると思ったが、独特の気持ち悪さを感じた。最近、ヒューマノイドの女性ロボットと生身の女性が二人並んでベンチに座って話している(ように見える)金鳥の虫除けスプレー「プレシャワー」のCMを見たが、ヒューマノイドの肌の質感が人間にとても近く見えるだけに、「よくできている。人間みたい。でも、このコミュニケーションは本物ではない」という居心地の悪さを感じる。もちろん、金鳥はそれも計算に入れているのだろうけれど。

 岡田教授のロボットは、人間も及ばない人工知能とか、人が耐えられない環境でも働ける強靭なロボットとは正反対の流れの中にあるロボットだ。たとえば彼のお掃除ロボットは,ゴミのところまで動いて行くがゴミは拾えない。身体をちょっと傾けて、周りの人間にゴミを拾って自分に入れてくれるように促すのだと言う。そして、そのユーモラスな姿を見た周りの人間、とくに子供は、よくゴミを拾ってくれるという。岡田教授は、大人気のお掃除ロボット「ルンバ」も弱いロボットの仲間だと言っている。というのも、ルンバの持ち主たちは予め床の上の雑誌を片付けたり、椅子の位置を動かしたりして、ルンバが動きやすいように手助けするからだ。

 人間を助けるために作られるはずのロボットが、人間に助けを求めるのは本末転倒に思われる。しかし、完璧を目指すロボットより、岡田教授のロボットのほうがずっと人間的に感じられる。自分が年を取って、介護ロボットの手助けを借りる姿を想像すると、何から何までやってくれるロボットよりも、「これとこれはロボットにはできないから、やっておいてやらなくちゃ」と私を動かすロボットと暮らすほうが、人間性が保てる気がする。多分、人間の本性の奥底には「人を助けたい」「人の役に立ちたい」という気持ちがあって、弱いロボットはそこに働きかけるのだろう。そのうち、人間を動かす弱いロボットとアンドロイド型の強いロボットの技術が合体して、人間と共存する心地よいロボットが生まれるのかもしれない。その日を見てみたい気もするが、私が生きている間に実現するだろうか。

興味があったら、以下もどうぞ。
朝日新聞フロントランナー記事「弱いロボット」

アンドロイドキンチョー CM 金鳥 プレシャワー 「ベンチの二人」篇

岡田教授の著書「弱いロボット」

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.07.08更新)




様々な芍薬が売られていました


色とりどりの花束


花束の作り方に店の個性が出ます
花を買う、花を贈る楽しみ

 今年のゴールデンウィークは南仏旅行を楽しんできました。今回はパリに寄らず、最初の滞在地はニース。海岸に沿った大通り「プロムナード・デザングレ」は様々な映画にも登場するきもちのいい散歩道でしたが、この通りの東側の旧市街に、花市や朝市が出る一帯があります。着いた翌日の朝、さっそくこの花市を見てきました。

 春たけなわという時期なので、それぞれの店には芍薬、カラー、百合、薔薇、ガーベラなどの切り花と鉢物がきれいに並んでいます。丸い花束がたくさん並ぶ様子は壮観でしたが、それよりも驚いたのが値段の安さ。日本なら3000円近くしそうな花束が12ユーロとか15ユーロ(1ユーロは現在140円弱)で売られています。ランチもだいたいこのくらいの値段なので、ランチ一食分と思えば気軽に花束が買えますし、男性も女性にプレゼントしやすいだろうなと思いました。日本の花ももっと安くなって、女性に花を贈る男性が増えればいいなと思います。

 旅行中に出会ったもう一つの花イベントは、5月1日の「ジュール・ド・ミュゲ(鈴蘭の日)」でした。この日には愛する人や家族、世話になっている人に鈴蘭を贈る習慣があるそうで、もらった人には幸せが訪れるそうです。この日は手に鈴蘭の花束を持っている人も多く、花屋さんだけでなくバスの車窓からも鈴蘭だけを売る小さな露店が時々見えて、微笑ましく感じました。鈴蘭はとてもいい匂いで、これをもらっただけで「幸せが訪れた」と感じさせてくれる花だと思います。

 花を買う、花を贈る、花をもらう、どれもが少しだけ心が踊る体験です。東京でも旅先でも、花を買って家に帰る人、花束を抱えている人の表情はなごやかで、そんな人たちを見るのが好きです。

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.08.04.更新)


エスカレーターの横にも「トラのもん」が


イベントの準備中の芝生広場


庭園のあちこちにはベンチが
置かれています
東京の新名所「虎ノ門ヒルズ」
吹き抜けのスペースにいる「トラのもん」
 先日、三重から高校時代の友人が上京して来て、念願のスカイツリーを見て来ました。新しく出来たところにはとりあえず行ってみたい性分なのですが、スカイツリーは東京西部に住む私にはちょっと遠かったのと、登るために並ばなくてはならないのが大きなネックでした。なにしろ行列に並ぶのが嫌いなのです。しかし、遠来の友人とおしゃべりしていれば時間の経つのも早く、私としては最長に近い1時間並んで、上まで行って来ました。一緒に並んでいた人たちを眺めたり、上で東京の風景を眺める人たちを見たりするのは、なかなかおもしろい体験でした。

 やっぱり、新しいところにいくのは面白いと思ったので、先日は虎ノ門ヒルズに行って来ました。虎ノ門ヒルズという名前から、六本木ヒルズやその対抗馬の東京ミッドタウンのようなものを期待して行ったのですが、これは肩すかしでした。虎ノ門はビジネス街なので、虎ノ門ヒルズの規模は小さく、ファッションがらみの店はなし。ホテルとオフィス、住居棟、少数のカフェとレストラン、建物の周りの庭園という地味な作りでした。建物よりはオリンピック道路と言われる環状2号線が注目なのかもしれませんが、私は車を運転しないので、その変化はピンと来ませんでした。

 広告の仕事している私としては、道路より気になるのがキャラクターの「トラのもん」です。このキャラクターは「ドラえもん」の著作権を管理する藤子プロと共同で制作されたそうですが、パテント料はいくらくらい払っているのだろう? 虎ノ門ヒルズオープンの際に大々的に宣伝されていたので建物のあちこちにいるのかと思いましたが、意外に地味な扱いでした。庭園はビジネス街のオアシスという感じの心地よさだったので、近くに行ったらまた寄ってみたいと思っています。                               

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.09.03.更新)

映画の好み

 先日、友人に「一番好きな映画は何と聞かれたら、何と答える?」と聞かれました。私は映画の10倍くらい演劇のほうが好きなので、とっさにこう聞かれても答に窮します。それでも、高校時代は学校の近くの渋谷の名画座に午後の授業をさぼって行っていたので、当時を思い出して『去年マリエンバートで』と答えました。その時は忘れていたけれど、ピーターのデビュー作『薔薇の葬列』も強烈な印象で、大好きな作品です。

 でも、この二つが自分のベストだと思うのは、その後に見た作品からはこの時以上に心を動かされるような体験をしなかったというだけで、今はストーリーもよく覚えていません。感動したのは若かったからかもしれないし、薔薇の葬列は、当時好きだったボードレールやランボーの詩がモチーフに使われていたからかもしれません。当時はゴダールやフェリーニなども好きで見ていたのですが、今は記憶も曖昧です。見直したら感動するかもしれませんね。

 もう少し皆が知っている映画で好きなものを考えてみました。まずはアラン・ドロンの『太陽がいっぱい』。これは、母がアラン・ドロンファンで、「ステキ! ステキ!」というのを聞きながら見た作品です。もう一つは「麗しのサブリナ」。これは水野英子の漫画を先に読んで好きになり、その後に映画を見てオードリー・ヘップバーンの魅力を満喫しました。でも、これも古い映画で、知らない若い人も多いでしょうね。

 もう少し最近のものを考えてみましょう。『フリーダ』『バスキア』『ポロック』など絵描きを主題とした映画も好きですが、これは出てくる絵が好きなので、映画としての評価できていない気がします。とても気に入って初めてDVDを買ったのが『マルコヴィッチの穴』。1999年の作品です。『奇人たちの晩餐会』は、私の当時の精神状態にはまって慰めになった作品で、心に残っています。

 その後はあまり心に残る映画に出会っていません。年に数本しか見ないので、もう少し積極的に映画館行くといいかもしれません。涼しくなったので、映画もいいなと思うのですが、同じ行くなら映画より芝居と思ってしまいます。そんな私にお勧めの映画があったら教えてください。

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.10.07.更新)


インドの刺繍のトートバッグ


中南米産トイレットペーパー
カバーの刺繍



その青色ヴァージョン
刺繍小物を探す楽しみ
南仏土産のランチョンマット

 9月21日に代々木公園イベント広場で開催された「ナマステ・インディア」に行ってきました。インド料理が大好きなので、おいしいインド料理を食べて楽しんで来ようと思ったのですが、インド関係のもう一つの楽しみがインドの刺繍小物を見ることでした。刺繍には目がないので、一針一針縫われた色鮮やかな刺繍小物を見られるインド雑貨店は、私にはとても魅力的な場所です。「よけいな物は買わないようにしよう」と思っているのですが、私の目を楽しませてくれるものは、よけいな物ではないしね(^-^)。というわけで、インドらしく丸いミラーが埋め込まれた華やかな刺繍のバッグを買ってきました。これは今、部屋の天井近くに飾ってあります。

 私が刺繍にはまったのは小学校6年生の時でした。近所の年配の女性にフランス刺繍を教わり、できあがったものを母と祖母がほめてくれたので、とてもいい気分になって、それ以来ずっと刺し続けてきました。高校生くらいまでは、二人へのプレゼントと言えば、刺繍した作品でした。私はけっして器用ではないので、今考えると稚拙な出来だったと思いますが、手放しで喜んでほめてくれたのは、家族の私への愛情ゆえですね。

 しかし、最近は目も肩も疲れるので、ほとんど刺繍をしなくなりました。そのぶん、外できれいな刺繍小物を見ると欲しくなります。人間は自分で作りだせなくなると、コレクター志向になるのかもしれません。そこで、我が家のささやかなコレクションを紹介しましょう。トイレットペーパーカバーになっているのは南米の刺繍、フェアトレードの店で買ってきたものです。これはデザインが気に入ったので、冬用のブルーヴァージョンもあります。刺繍のランチョンマットも手軽に楽しめるコレクションです。ラベンダー色の花の刺繍がきれいなランチョンマットは南フランスに行ったときに買ってきたもの。自分で刺すと作り上げる喜びを感じますが、こうして出かけるたびに好みの刺繍を探すのも楽しいものです。

(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.11.04.更新)




 これを買いました
(ヘルシオ)
スロージューサーというものを買ってみた

 先日思い立って、食器棚の奥からジューサーを取り出して使ってみました。作ったのはリンゴと人参のジュース。食べるのを控えて1日3回このジュースを飲んだところ、体がしゃきっとリフレッシュした気がしました。「これはいい」と体で感じたのですが、同時に思い出したのが音の大きさでした。今から20年近く前にこのジューサーを買い、すぐに使わなくなったのは、大きな音が原因でした。再びこの音を聞いて、「朝っぱらから歯医者のスクリューかチェンソーのような音は聞きたくない、と思って使うのをやめたのだった」と思い出したのです。

 しかし、20年経てば家電は相当に進歩しているはず。音の静かなジューサーがあるのではないかと思い、家電量販店にジューサーを見に行きました。担当者を捕まえて、「ともかく静かなのがほしいので、お勧めを教えて」と頼んだのですが、答えは「モーターの回転音なので、音は皆似たようなもの。それなりにうるさいですよ」「メーカーが音量を測っていないので、どれが静かか比較できないです」と、期待はずれなものでした。

 それでは今あるジューサーでがまんしようと考え、なるべく音が小さくなるように材料を細かく切ってからジューサーにかけてみました。これで多少音が抑えられるようになりましたが、壁の薄いマンションの台所で朝早くから「キューン、シューン」と音を立てるのは憚られるような音量です。

 またしても買い替えを考え、そこで思いついたのがYouTubeです。「ジューサー、音」をキーワードに検索すると、たくさんの映像が上がっていました。メーカーが宣伝のためにアップするならわかるけれど、普通の人が自分の家のジューサーでジュースを作るところをこんなにたくさんアップしているなんて不思議な気がします。まあ、そのおかげで私はスロージューサーの音を聞くことができたのですが。

 私のもっているジューサーは高速回転するおろし金で材料をすりおろすのですが、最近はやりのスロージューサーは低速回転のスクリューが材料を圧縮して絞るので、野菜や果物の栄養を壊さないのだそうです。「低速回転ならば音も静かなはず」と期待して3種類のスロージューサーの音をYouTube聞いてみました。どれも「静かとは言えないけれど、がまんできる程度」だったので、価格とデザインで選んだのがシャープのスロージューサー「ヘルシオ」です。アマゾンと家電量販店での値段を比較して、アマゾンから購入。今朝、現物が届きました。葉物のジュースは嫌いなので、作るのはリンゴと人参のミックスジュースだけですが、なかなかおいしいジュースができました。音はまあまあの大きさなので、それにめげずにしばらくフレッシュジュース生活を試してみようと思っています。

Youtubeで音が聞けます。後ろの猫の反応がおもしろい


(えざき りえ)







はまって、はまって

江崎リエ(2014.12.03.更新)




バナナの自動販売機


中身はこれ



リンゴの自動販売機
自動販売機文化


花束の自動販売機

 日本は外国人観光客を増やそうとしていて、テレビ番組でもそうした外国人観光客を取材して、彼らが喜ぶもの、興味を持つものを紹介しています。その中でよく出てくるのが自動販売機です。「こんなにあちこちにあるなんて、すごい」「温かい飲み物が出てくるなんて、すごい」「いたずらされたり、壊されてお金が盗まれたりしないなんて、すごい。さすが安全な日本」という感想を聞くと、飲料の自販機が当たり前の日本人としては、「そんなところに驚くのか」と逆に驚いたりします。  

 しかし、自販機を見慣れた日本人である私でも、「えっ、こんな自販機もあるの」と驚くものがあります。それをいくつか紹介しましょう。

 一つ目は地下鉄丸の内線新宿駅近くにある花束の自販機。どういう人が買うのでしょうか。私が高校生のころ、父に連れられて歌舞伎町のバー「ナルシス」に行くと、店に来る常連さんの何人かは、ママさんに花束を持ってきていました。これから馴染みの店に行く男性が店のママさんに買って行くのか、酔っぱらって帰りが遅くなった男性が自宅で待つ奥さんをなだめるために買って行くのかと想像すると、ちょっと楽しくなります。

 二つ目はバナナの自動販売機。これはDoleの宣伝を兼ねているようですが、翌朝の朝食用に酔っぱらった男たちが買うのだとしたら、健康にいいかもしれません。直感的に男性が買うような気がしましたが、女性も買うのかもしれませんね。どういう人が買うのか、データを見てみたい気がします。

 三つ目はりんごの自動販売機。写真は皮付きのようですが、私が見たのは切ってむいてありました。女性なら丸のりんごを買いそうなので、これも男性向けでしょうか。

 そして、四つ目はフランスのバゲットの自動販売機。これは、日本人のほうが驚くのではないかと思います。予め焼いてあるバゲットに仕上げの焼き上げをして、自販機から出てくるそうです。「自分の家の近所に馴染みのパン屋を持つことと、バゲットの味にこだわるフランス人に自販機のバゲットが売れるのだろうか」と思いますが、パン屋の横に設置されて、そのパン屋の営業時間外にバゲットが買えるしくみになっていて、営業時間外の売上増加になっているそうです。


バゲットの自動販売機

 バゲットの自販機の話を東京にいるフランス人にしたところ、「スーパーのバゲットよりずっといいよ」「値段によるけど、味が良ければ売れると思う」という反応。私はパン屋さんに入って、焼きたてのパンのいい匂いをかぎながら、店主とちょっとした会話をするのが楽しいけれど、閉店後で買えないより、自販機で行きつけのパン屋のバゲットが買えるほうがいいかもしれません。問題は味なので、こんどパリに行ったらこの自販機を探して味見したいと思っています。

(えざき りえ)